平成26年度卒業論文表彰

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平成15年度から経済学部の同窓会である瑞山会による卒業生の表彰が行われています。表彰の対象は、学業成績だけでなく、卒業論文、資格取得、スポーツ、文化活動、あるいは懸賞論文における優れた成績、さらにボランティア活動のような社会活動などに渡っています。 
今年度も、優秀な学業成績をあげた方から3名、公認会計士に現役で合格された方から1名、そして以下に紹介する卒論を書かれた2組を表彰することとしました。

1つ目は卒業論文は、山本陽子ゼミの石井美帆さん、加藤良隆さん、二宮優治さん、丹羽彩由美さん、廣濱健作さん、前田隼さんによる「障害者の一般就労を目指す ~データ分析と実地調査を基に~」です。

山本先生は、
「この論文は障害者の就労に焦点をあて、一般の企業における障害者の就労を促進するために、企業としてどのような取り組みをしていくことが効果的なのか、障害者雇用を促進するために有効と思われる取り組みについて仮説を立て、検証しています。検証方法として、集計データを用いた実証分析、障害者雇用を意欲的に行っている企業に対するヒアリング調査、企業800社に対するアンケート調査と3種類の方法を用い、障害者雇用促進策の核心に迫ろうとした意欲的な論文です。」
とコメントされています。

また、論文を執筆した学生からは
「最初は、障害者の方はどの様な仕事をしているのだろうか?仕事にちゃんと取り組むことは出来るのだろうかと思っていました。実際に、障害者の方が働いているのを見て、仕事の割り振りや、その人の能力をしっかり見極めることで、いくらでも仕事は見つかるのだと感じました。障害者の方もしっかり仕事に取り組むことが出来て、成果を出すことが出来るということが、世の中にもっと認識され、健常者も障害者も差別なく働くことが出来る世の中が形成されていけばいいなと思いました!」

「今回の論文を通して、障害者の方に対する認識が変わりました。」

「論文執筆開始時、障害者雇用についての具体的なイメージはありませんでした。それからヒアリング・アンケート調査を重ねていくうちに、論文のビジョンが見えてきました。論文完成に至ったのは、ヒアリング・アンケート調査にご協力いただいた企業の皆様のおかげです。ありがとうございました。」

「知的障害者と交流を行う部活動に所属していたことから興味を持ったテーマでしたが、春から社会に出る身として視野を広げることができたと感じています。」

「この論文を書くことができたのは、障害者雇用の現場を拝見させていただけたことに依るところが大きいと思います。自身の認識の変化に加えて、生の声を聞いたから生まれた考えや発見が多くあります。問題解決を図るにあたり、その問題に肌で触れてみることの重要さを感じました。最後になりますが、ご協力いただいた皆様に感謝致します。」

「論文執筆にあたり、ヒアリングやアンケート調査を通して、現場で働く障害者の方や企業の方の志に触れ、貴重な体験をさせていただいたことで、自分の障害への理解が進みました。」

といった感想がよせられています。

論文の要旨はこちら

現在の日本では、「障害者の権利に関する条約」が批准されるなど、障害者の人権・基本的自由の享有の確保や、社会への参加・包容を目指す動きが強くなっている。その様な状況の中で、ノーマライゼイション、社会保障費負担、雇用義務の観点などから、私たちは、障害者雇用を促進する必要があるのではないかと考えた。
そこで、本稿では、障害者雇用に関する現行の制度について回帰分析を行い、障害者雇用の促進・定着のために、行政に求められることについて考えることにした。また同時に、文献調査、障害者雇用を行っている企業へのヒアリング、アンケート調査を通じて、企業が行うべきことについても考えている。
回帰分析については、就労継続支援A型事業と中小企業の障害者実雇用率は正の相関を持つこと、特例子会社を設けることは障害者実雇用率と正の相関を持つこと、特別支援学校の教員数と障害者実雇用率は正の相関を持つことがわかった。
ヒアリング調査については、ヒアリングを行った企業の共通要素として、障害者のことをよく理解していること、仕事の細分化を行っていること、障害者を雇うことによって、企業にプラスの影響が与えられているという3つの要素が挙げられることがわかった。
アンケート調査については、回答者の約8割が障害者雇用を行っておらず、また現在行っていても、雇用している人数が少ないことがわかった。またその理由としては、障害者の雇用が難しい仕事であること、受け入れ体制が整っていないこと等が挙げられていた。
これらの結果から、行政に関しては、福祉就労の施設環境の把握や改善、企業と障害者とのマッチングの機会の提供、ジョブコーチ等アドバイザーの整備などを行うべきであるという結果に至った。また企業に関しては、仕事の内容の細分化、切り出し、障害者の受け入れ体制の整備、障害者への十分な理解などが必要なのではないかという結論を得た。
今回の分析や調査によって、障害者雇用に関しては、多くの課題があるということが判明した。これらの問題が解消の方向に進み、そして障害者の一般就労がより促進されることが、今後求められていく。

2つ目は横山和輝ゼミの藤本真代さんによる「家族の絆が支える命:都道府県別データによる自殺要因分析」です。

横山先生からは
「藤本真代さんの卒業論文の表題は「家族の絆が支える命:都道府県別データによる自殺要因分析」です。研究性格の骨格は3年時に出来上がりました。ゼミ3年時に,板倉・茨木・木村・山本ゼミとの対抗報告会においてすでに成果報告を行なっています。これを文章化したものが卒業論文です。時間をかけながら,サーベイ,データ収集,分析そして分析結果の解釈を慎重に進めました。

藤本さんの研究は、命の問題に社会科学から取り組むものとして、実に真摯な問題関心を貫いています。彼女は先行研究を読み進めながら、自殺動機として景気や賃金所得といった経済の要因が関係していることに着目します。こうした論文を読み進めるなかで、男性と女性とで社会的役割が異なるのであれば、自殺する動機や自殺を思いとどまらせる要因にも男女差があるのではないかという疑問が生まれました。これが彼女の研究動機となっています。

先行研究の多くは英文であり、しかも内容は計量分析です。読み進めるのに最初は苦労したようです。ですが慣れればさすが名市大生、こちらが次々とゼミのSNSに各々の論文のPDFファイルをアップしておくと、数日後にはおおよそ理解しているレベルに達していました。こうした基礎学力ならびにそれをひきあげようとする向上心は、今後のキャリア形成においても、情報収集力・理解力の巧みさとして活用されてくるものと思われます。

藤本さんの計量分析は、13年分の47都道府県、611というサンプルサイズのパネルデータを用います。最終体には論文に掲載しなかった変数も含めると、各都道府県について、各々20個以上の変数を手で入力する作業からスタートします。これは決して楽ではありません。入力ミスも生じます。何度も何度もチェックを重ねることに決して根を上げませんでした。

計量分析に立ち入ったことを記しておくと、パネルのデータセットで一度に推定して終わり、ということもしませんでした。各年ごとに分析してみたり、所得水準の大小によって都道府県を分割して、それぞれのグループで分析したり、さらには統計的推定の方法を複数試行しておくなど、変数間の統計的関係を丁寧に頭に叩き込んでいました。その集中力と整理する力は、目を見張るべきものがあります。

分析結果は、婚姻関係や出産というイベントでの男女間の役割が大きく異なることで、各変数の自殺率への効き方に男女差があるという彼女の直感(仮説)をサポートするものとなりました。ただし、丁寧に分析を重ねたおかげで、直感よりもより詳細な事実関係を把握することができました。確固たる根拠のもとに意見を提示する姿勢は、アカデミズムにおける最も重要な側面と言えます。

才能ある若い学生さんが、卒論表彰の対象となるほどの努力と鍛錬を重ねてこられたことに、あらためて感謝の念を表わしたいと思います。」
とコメントされています。

藤本さんからは、
「この卒業論文では、男女別の自殺要因を都道府県レベルのパネルデータを用いて分析を行いました。その結果、2001年から2013年において家族形成に関する変数が自殺率に有意な影響を与えていることを確認できました。先行論文は英語のものが多く、読むのは苦労しましたが、いい経験になりました。
ちなみに、昨年の12月に行われた合同ゼミ報告会に出席し、同じ名市大生の頑張る姿に刺激を受け、期限ぎりぎりの中取り組むことに決めました。報告会を通じて刺激を与えてくれた先生方やゼミの同期・後輩には大変感謝しています。」
との言葉をいただきました。

論文の要旨はこちら

本稿の課題は、家族の絆に関する変数(合計特殊出生率、離婚率、婚姻率、自然死産率)が男女別の自殺率にどのような影響を与えているかについて統計的に検定することである。2001年から2013年の都道府県レベルのパネルデータを用いて、男女それぞれの自殺率を被説明変数とする連立方程式の同時推定を行なう。合計特殊出生率と婚姻率は、共に男女の自殺率と負の相関関係にある。反対に自然死産率は男女の自殺率と正の相関関係にある。一方、離婚率は女性の自殺率にのみ負の相関関係にあった。自殺の決定要因を探る分析は、どうすれば人を自殺させずに済むのか、どうすれば悲しい決意をさせずに済むのかという切実な議論に対して参考材料を示すことが究極的な課題とされてくる。家庭およびビジネス両面での対人関係が生きる支えとして重要である、という主張に対し、本稿は定量的な根拠を提示するものである。

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藤本さんおめでとうございます